お出かけ日記ANNEX

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5/2(日) 松山・広島・うさぎ島 瀬戸内まんきつ海の旅2日目~その2~

 ホテルで荷物をピックアップして、11時オープンの鍋焼うどんの名店 ことりへ向かいます。店の前まで行ってみると、開店の準備をしている気配がありません。店先には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う臨時休業のお知らせが貼られています。残念ですが、今日は食べられないようです。

 すぐ近くにももう一軒の鍋焼うどんのお店、アサヒさんがあり、こちらは営業するらしく、店の前には開店待ちの列ができていました。しかし、そこまでお腹が減っているわけでもないので、ここは潔く諦めましょう。
「またおいで」
と、この街に言われているのだと思うことにします。
 松山市駅に向かう松山銀天街を歩いていると、アーケードに大画面の液晶モニターが吊り下げられていることに気づきました。なるほど、一般向けに市販されているものを設置するなら、導入コストもメンテナンス費用も抑えられるはずです。それなのに、映りの悪いモニターがそのままになっているというのは……。これもコロナ禍の影響でしょうか。


 いよてつ髙島屋で大好きな六時屋さんのタルトを買ってから駅に向かうと、11:30発の電車に乗れそうです。Yahoo!の乗り換え案内によれば、この電車に乗ると、松山観光港で1時間ほど待ち時間があるようですが、港で何か食べて、のんびりしていれば良いのです。

 きっぷを買ってホームへ上がると、元京王井の頭線の車両がやってきました。これに乗って、終点の高浜へ向かいます。


 地方のローカル私鉄に乗ると、都会とは時間の流れが違うことを感じます。それなのに、車両は東京を走っていたもの。こうして地方で余生を送っているのを見ると、「そんな暮らしも素敵だな」と思うのです。


 この路線の一番の魅力は、やはり海が見えること。梅津寺駅でドアが開くと、ホーム下の海からは波の音が聞こえました。瀬戸内海でこれだけ音がするほどだと、今日は揺れるかもしれません。


 10:51、終点の高浜駅に到着。ホームの脇に100円で観光港まで乗せてくれるバスが待っていましたが、観光港までは1kmほど。歩いてもどうってことない距離ですし、どうせ観光港で待つのだからと、バスには乗らずに自力で行くことにしました。

 道路のすぐ脇には、伊予灘が迫っています。風も出てきて肌寒く、遠くに白波も見えています。空は今にも降りそうな黒い雲。
「これは、バスに乗れば良かったかなぁ」
 走り去るバスの後ろ姿を見てそう思ったのですが、一度乗らないと決めたのです。初志貫徹、最後まで頑張りましょう。


 歩いていると、観光港に船が入ってくるのが見えました。
「あれ? もしかして、1本早いのに乗れるんじゃないか?」
 Yahoo!の乗り換え案内を鵜呑みにしていたのですが、どうやら私が乗った列車は11:05のフェリーに接続するようです。そうとは気づかずに、歩いて観光港へ向かっている私。
 こうなると、間に合わなければ負けたような気がします。
「よし、乗れるかどうか、チャレンジだ!」
 そこからは、荷物を持ってダッシュ。息を切らして窓口に滑り込み、どうにか間に合いました。


 11:05、石崎汽船の旭洋丸は静かに松山観光港を出発。あまりに静かすぎて、動き出したことに気づかなかったほどです。
 昔の船は、出航の時はディーゼルエンジンを唸らせて、その振動が壁にも床にも私自身の体にも伝わり、
「お、動いたぞ」
と実感できたものです。それが、最近の船はなんと静かなのでしょう。まるで、大型バスのエンジン音のようです。その大型バスだって、最近はとても静かになりました。伊予鉄の市内電車でも感じたことですが、旅から昔ながらの音が失われていくことに寂しさを感じずにはいられません。

 旭洋丸は、2019年に就航した船。トイレにはウォシュレットが付いていたり、バリアフリーの設計だったりして、以前の船とは大違いです。
 揺れたのは松山観光港を出てしばらくの間だけ。すぐに、いつもの瀬戸内の穏やかな船旅が始まりました。


 左舷側の窓からは、島影の向こうに青空が見えます。昨日、松山空港へのアプローチ中に空から見た島々を、今日は海から眺めます。風は少し冷たいものの、旭洋丸は島々の間を波をきって進んでいきます。


 11:18、売店が開いたので、ビールとつまみのかっぱえびせんを買い求めます。何しろ、鍋焼うどんを食べる気満々で朝食バイキングを控えめにしていたのです。小腹が減っているのは当然のこと。


「お腹空いた。さあ、食べよう、食べよう」
 そうやって勢いよく口の中に放り込んだかっぱえびせんが、私の乾いた喉を容赦なく刺激しました。
「ま、まずい。咳が出そうだ……」
 もちろん、体調は悪くありません。ですがこのご時世、人がいるところで咳をするのは憚られます。ビールをぐびりと流し込んで、咳き込みそうになるのを抑えようとするのですが、そんなものでは収まりません。
「とりあえず、緊急避難だ」
 咳をこらえて涙目になりながらデッキに出て、誰もいないのを確認してから思い切り咳をするのでした。