お出かけ日記ANNEX

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5/3(月・祝) 松山・広島・うさぎ島 瀬戸内まんきつ海の旅3日目~その2~

 交差点の角を曲がると、お店の前に自転車が数台停まっているのが見えました。シャッターは開いていて、のれんもかかっています。
「やった! 開いている!」
 時刻は10時を少し回ったところ。さすが聖地、源蔵本店です。


 のれんをくぐって席に着くと、まず飲み物を聞かれました。キリンの生ビールといえば、今では一番搾りが主流ですが、ここはキリンラガーの生ビールのようです。ラガーファンの私には、なんとも嬉しい限り。
「生ビール、中でお願いします」


 それから冷蔵庫を物色し、シャコとツブ貝を注文。やってきたシャコは20cmくらいありそうで、酢じょうゆの皿に身が入り切らないほど。プリプリの身は甘く、寿司の上にちょこんと載っているシャコとは別物です。


 ツブ貝には安全ピンがセットで付いてきます。小さな巻き貝の中身を出すには、これがちょうど良いのです。


「すみません、熱燗もください」
 たまらずにお銚子一本追加。高い方、安い方という言い方も、大衆酒場っぽくて好感がもてます。
 これでもまだ、他の店ではランチタイムさえ始まっていないのです。ここは天国。ついついもう一本、もう一品と注文したくなりますが、それをやると今日は確実にダメ人間になってしまうので、ここらで止めておくことにします。
 店を出ると、向こうに愛宕の踏切が見えました。戦後の闇市から続くといわれた愛友市場がなくなり、その跡地には再開発で大きなビルが建ち並ぶようになりました。源蔵本店だって、きれいに建て替えられています。多くのものが変わってしまった中、昔ながらにそこにあり続ける大きな愛宕の踏切は、何かとても愛おしく感じるのです。


 その踏切から線路沿いに延びる道は、マツダスタジアムへと続くカープロード。カープのチームカラーである赤が、あちこちにあしらわれています。なんと、青いはずのローソンも赤くなっているではありませんか。それほどまでに、広島の人たちのカープ愛は熱いのです。


 今日のマツダスタジアムの試合は対巨人戦で、チケットは完売と書かれていました。球場内のカープグッズ売り場を覗いてみると、レプリカユニフォームの他にもたくさんのグッズが並んでいます。さながらテーマパークのキャラクターグッズ売り場のようです。


 マツダスタジアムは、正式には広島市民球場といいます。名前は以前、原爆ドームの向かいにあった球場のものをそのまま引き継いでいるのですが、そのことを知る人はそう多くはないかもしれません。球場の壁面に大きくMAZDA zoom-zoomスタジアム広島と書かれているのに比べて、正式名称はひっそりと控えめに掲げられているのでした。


 球場を出ると、カープの選手らしい男性が2人、こちらに向かって歩いてきます。詳しくないので、誰だかはさっぱりわかりません。しかし、近所の店でふらりと気軽に買い物ができるような空気。それは、小さな街だからでしょうか、それとも広島の空気がそうなのでしょうか、そんな街と球団との距離感が素敵だなと思います。


 お昼は、比治山下にあるKajisanへ行くことにします。トンネルを抜けてお店に着くと、小さなお店はお客さんでいっぱい。


「昨日はお客さん少なかったけぇ、楽させてもろぅたんよ」
と言いながら忙しそうにお好み焼きを焼いているおばちゃんは、心なしか、昨年来た時よりもひと回り小さくなったような気がします。歳をとるということはそういうことなのだとわかっていても、やはり少し寂しいものです。
 いつも通り、肉、玉、そばにネギを載せてもらいます。今でもこれで、600円。


「全然もうかってません」
と笑うおばちゃんは、もはやもうける気なんてさらさらなさそうです。
 就職前に職場の見学に来て、初めて立ち寄ったお店。その職場を辞めてからも通ったお店。そして、東京に移り住んでも、どうしても食べたくなるお店。
「いつまでできるか、わからんけぇね」
 そうやっておばちゃんは明るく笑って言うけれど、いつかその日は必ずやってきます。大好きな街の大好きな場所で、大好きなおばちゃんが作る大好きなお好み焼き。
「やっぱりこのお好み焼きは美味しいなぁ」
と、しみじみ思うのでした。
 路面電車に乗って、次はどこへ行こうかと考えていると、大好きな担担麺やさんの昼の営業時間内にギリギリ間に合いそうです。
「よし。舟入にも行こう」
 もし店が早じまいしていたとしても、一日券ですから無駄に交通費がかかることもありません。


 土橋で江波線に乗り換えて、舟入幸町へ。広島の汁なし担担麺の草分け、きさくは営業中でした。


 店に入ると、昼のオーダーストップの13:30近いというのに、まだ順番を待っている人がいます。それもそのはず。このご時世、座席数を減らして営業しているため、お客さんの回転があまり良くないようです。
「こがあなとこにおったらいけまあが」
と、以前からよく知るお店の方が笑っていました。口の悪さは相変わらずですが、決して相手を傷つけようとしているのではありません。むしろ、「体調に気をつけろよ、心配しているぞ」という、彼なりのメッセージなのです。
 そういったニュアンスは、標準語では伝わりません。方言がもつ言葉の温かさでしょう。大好きな広島の街で、広島弁で気持ちを伝え合うということができるということを嬉しく思うのでした。