お出かけ日記ANNEX

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8/7(土) 初めてのお遍路 酷暑の四国一周の旅8日目~その2~

 仏木寺の前を通る県道で峠を越えて、西予市へ入ります。道路地図ではわからなかったのですが、43番明石寺は再び山の寺でした。この後の44番、45番と山の寺が続くので、その小手調べといったところでしょうか。
 駐車場に車を停めて、坂道を歩いて登っていくと、私が停めた駐車場よりも上にも駐車場があるようです。さっきの駐車場での一件もあるので、ここはそのまま、帰りも歩くことにします。
 寺までの坂道を歩いているときに、私のすぐ横をタクシーが上がっていきました。寺の石段のすぐ手前で停まると、中年の男性が納経帳を手に降りてきます。彼はタクシーを待たせたまま、石段を上がって行きます。


 彼はひとり、何を思って寺を巡っているのでしょう。いや、私も移動手段が違うだけで、他の人からすれば、なぜ八十八カ所を巡っているのだろうと思われるのかもしれません。
 何か神仏にすがらなければならない状況ではありません。何か深く後悔し、それを贖うために巡っているわけでもありません。
 なぜ寺を巡るのか。それは、なぜ旅をするのかということと同じかもしれません。絶対にやらなければいけないという必要性はないのです。しかし、それによって自分自身を磨いたり、自分自身を高めたりすることができたと感じるのです。自己満足と言われればそれまでですが、自己満足もできずに生きるというのは虚しいものだと思います。


 大洲を抜けるときに、弘法大師が野宿をしたという十夜ヶ橋にも立ち寄ってみます。有名な橋ではありますが、そんなに大きな川ではないことに驚かされます。もっとも、昔は大きな川に橋を架けることは容易ではなかったはずですから当たり前なのですが。


 44番大宝寺と45番岩屋寺は、同じ県道12号線沿いにあります。さらにその先の札所を目指すのなら、45番から44番と逆に回った方が効率がよさそうです。
 松山へ向かうメインルートの国道56号線から川に沿って走る国道379号線に入ると、一気に道の雰囲気が変わりました。深い緑の山々を眺めながらコーナーを気持ちよく抜けていくのは楽しいのですが、ずっとそればかりだとさすがに飽きてきます。そのせいか、国道380号線に入ると猛烈な眠気に襲われました。このままでは危険なので、道の駅 小田の郷せせらきで小休止。まだまだ先は長いのです。
 ここから先は道が狭くなるものの、他に車がいないので引き続き気持ちよく走ることができます。さらに、空もどんどん青さを増していくようです。
「こんなに天気がいいのに、このまま寺巡りを続けるべきなのだろうか」
 昨夜、土佐鶴を飲みながら立てた計画では、今日は松山あたりまで寺を巡り、夕方に道後温泉に入ってから今日の宿泊地である丸亀へと向かうつもりでした。しかし、それではもったいない気がしてきたのです。


 道を走っていると、看板に「石鎚」の文字が見られるようになりました。愛媛と高知を隔てる、四国の中央を貫く石鎚山からの眺めがよいことは、かつて走ったことがあるので知っています。
「久々に行こうかな、石鎚」
 ともあれ、まずは愛媛の序盤の難所、2つの山寺をクリアするのが先決です。
 45番岩屋寺の駐車場は300円。料金箱にお金を入れるようになっていましたが、あいにく小銭がありません。近くの店に行き、
「駐車料金を払いたいので両替をお願いします」
と1000円札を出すと700円を返されました。
「300円、いただきました」
と言われましたが、なるほど。この駐車場は寺のものでなく、民営というわけなのだとわかりました。


 看板には、「岩屋寺 徒歩20分」と書かれています。こう書かれたら、俄然ファイトが湧いてくるのです。
 山の中の参道をひたすら歩きます。結構勾配があるので、途中で息が上がってしまうのですが、目標タイムは徒歩20分。悠長に休んでいる暇はありません。


 いや、本当は何分かけて歩いたっていいはずなのです。ただ、徒歩20分と書いてあるのにそれよりも多く時間がかかったら、誰かに負けたような気になってしまう。だからついムキになってしまうというのが、私の悪い癖なのです。 
 結局、看板から鐘楼のところまで一気に歩いて、かかった時間は12分。本堂まではまだ少しありますが、とりあえず、徒歩20分は切れたのでよしとしましょう。
 本堂、大師堂とお詣りしてから、岩肌に開いている大きな穴、法華仙人堂跡を眺めます。そこへ行くためには、切り立った岩肌に立てかけられた梯子を上がらなければなりません。しかし、けっこう高さがあります。あの梯子だけで上り下りするのかと考えると、一瞬上ることを躊躇したのですが、
「ええい、ままよ」
と、せっかくここまで来たのだからと、上がってみることにしました。当然、梯子も岩屋も実にスリル満点。もしここで、
「怖くて降りられない」
となった人はどうやって救出するべきかと、真剣に考えてしまいました。


 岩屋から降りると、小学校中学年くらいの男の子が虫取り網を持って蝉を探していました。
「捕れた?」
と声をかけると、はにかんだ顔で、
「1匹」
とだけ答えてくれました。最初は誰かのお詣りについてきた子どもかと思ったのですが、それらしき親御さんの姿はありません。後で納経所へ行ったとき、そのすぐ脇の戸を開けて中から出てきたのがこの子だったので、このお寺の子なのでしょうか。だとすれば、さっき私が12分で上がってきた道を往復してここから毎日小学校へ通うのはさぞ大変だろうと、そんなことを考えてしまうのでした。