お出かけ日記ANNEX

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3/22(日) 濃厚!大人の広島平和学習の旅 3日目~その2~

 桜が咲き始めた平和記念公園を歩きます。ひと通り、平和学習のポイントになるような場所は案内したつもりでいました。Hさんもそれは予想していたようで、
「〇〇は行った?」
といった具合に確認してくれます。
「韓国人原爆犠牲者慰霊碑は、案内した?」
「初日に案内しました」
「じゃあ、その隣の墓石のところは?」
 しまった。盛り土のことには触れていません。やはり、Hさんの切り口はさすがだなあと思わされるのでした。



 Hさんの切り口と、私の切り口は同じではありません。生きてきた時間の長さだけでなく、学んできたことも、出会ってきた人たちも違う。だから、彼に伝えられることも違います。
 例えば、原爆の子の像の佐々木 禎子さんの話は、あまりにも有名です。しかし、禎子さんのようにして亡くなったたくさんの子どもたちのこと、そして、原爆のせいだとすることもでいずに亡くなった子どもたちの存在など、私が彼に伝えきれていない部分も語っていただきました。やはり、多くの人から学ぶことは大切なのだと感じます。
「じゃあ、そろそろどこかで、父の話をしましょうか」
 昨年亡くなられたHさんのお父様は、被爆体験をされた方。平和教育にも熱心な方だったとお聞きしています。そのお話を、原爆ドームの前で聞かせていただきます。


 あの日、広島にいた人たちからよく聞くのは、いつも通りにしていたら死んでいたはずだとか、たまたま自分だけこんなことをしていたから助かったといった、何らかの偶然が重なった話です。
 高等工業学校の学生さんだったHさんのお父様は、普通なら戦地に送られている年齢です。そして、その日に限って早く学校に来るように先生に言われて、市内を抜けて千田町に着いていたこと。ケガをして中心部に向かったけれど、中心部から自分よりもひどいケガをした人たちが逃げてくるのに気づき、宇品へ逃げたこと。軍隊によって、似島に運んでもらったこと。その後、山口県の親類を頼って逃げ、手当てを受けることができたこと……。それらのどれか一つでも違っていれば、命を落としても不思議はありません。
 Hさんのお父様だけでなく、そうして生き残った人たちが、戦後の広島を支えてきたのです。そのほとんどは、被爆という体験から、悲しみや苦しみを背負いながら生きてきたことでしょう。その人たちが乗り越えたこと、闘ったこと、諦めたこと、そして、今なお抱え続けていること。この街は、そういった人々の思いの上にあるのです。
 じっくりと話を聞いていた彼は、話が終わった後、感じたことやこの旅で考えたこと、そして、原爆の後に広島の人たちがどう生きてきたかなど、率直にHさんにぶつけていました。
 平和のために何ができるか。私たちには、世界を大きく動かす力はありません。でも、平和について、これからの未来について考えることができる。それが、誰かとつながって、平和につながっていくのかもしれません。
 遠くに見える山々が煙って見えます。北の方角に、黒い雲がかかっていて、これはひと雨くるかもしれません。
「お昼にしましょうか」
 とりあえず、午前の部はここまで。Hさんと何を食べようか相談していると、奥さまから、
「あなごめしは、どう?」
と助け船が出ました。
 本通りに向かう途中で雨が降ってきました。ちょうど木定楽器店の前にいたので、ほとんど濡れずにアーケードの下に入れたのはラッキーでした。


 着いたのは、旬の肴と炙り 月あかりという古民家風のお店。
「こんなお店、あったっけ?」
 奥まで入ってお店の方に声をかけると、満席だとのこと。
「こちらでしばらくお待ちください」
と、縁側の軒下で雨宿りをしながら待ちます。


 窓から中の様子をうかがうと、囲炉裏のある店内は純和風といった感じで、外国人観光客に喜ばれそうな雰囲気です。
 ここのあなごめしは、さっぱりとしていて美味しく、この旅初めての上品なごはんとなりました。


 運んで来てくれたお店の方が、
「後でひつまぶしのようにして召し上がっていただきます」
と言ったのですが、ひつまぶし用にどれだけ残せばよいのやら。
 みんながひと通り食べ終えた頃、小さな茶碗とともに、出汁が入った急須が運ばれてきました。なあんだ、最初からこれを出してくれればよかったのに。お重の中に出汁を入れるのかもと思い、かなり残していました。もちろん、ひつまぶしにした後、しっかりといただきましたが。
「そういえば、比治山の陸軍墓地は行った?」
「いや、行ってません」
「じゃあ、行ってみない?」
 広島の幼稚園に勤めていた頃に、何度か比治山には行っています。陸軍墓地の前も当然、通ったことがありますが、特に印象に残ってはいません。
「何か見どころ、あったかなぁ……」
と思いながらコインパーキングに戻り、Hさんの車に乗り込んだのでした。