8/9(月・祝) 初めてのお遍路 酷暑の四国一周の旅10日目【完】
朝から雨が降っていて、ホテルの部屋の窓には雨粒がついていました。
7:00にホテルをチェックアウト。本当は朝からやっている温泉銭湯に行こうかと話していたのですが、私の後にチェックアウトしてきたけいぴゃんは、すでに今日のライブの衣装を着ているとのこと。それならこのまま、直接東京まで行ってしまいましょう。
国道20号線に入ると、雨が強くなってきました。いわゆる土砂降りといったレベルです。台風10号は去ったものの、次の台風9号を取り巻く雲が通過するのが影響しているのかもしれません。
「さすがの晴れ女けいぴゃんも、台風には勝てないか……」
ガソリンスタンドで給油をしていると、スーパーカブが入ってきました。ライダーは当然カッパを着ているのですが、こんな雨の中を走るとは、かなりのガッツです。
こう雨が強いと、車から降りるのが億劫になります。朝ごはんをまだ食べていないのに、このまま中央道に乗ってしまおうかとさえ考えてしまうほどです。
すると、少しずつ雨が弱まってきました。なんということでしょう。チャンスタイムとばかりに、コンビニエンスストアで朝ごはんを買い込みます。
「よし。東京へ行くぞ!」
一宮御坂ICから中央道へ上がります。旅行から戻ってきて、羽田空港や成田空港、東京駅など、いわゆる東京の玄関口に着くと、そこで旅が終わってしまったような気がします。それと同じで、いつも通っている道まで来ると、旅の気分も薄れてしまうのです。でも、けいぴゃんの楽器を下ろして家に帰るまで気を抜くわけにはいきません。
休憩のために談合坂SAに寄ると、駐車場にはたくさんの自衛隊の車両が停まっていました。何度かこういった施設で自衛隊の車を見かけていますが、どこでも必ず建物から遠いところに離れて停めています。本来であれば、国民のために働いている方々です。逆に優遇されてもいいはずですが、そんなことは決してしません。
トイレから戻ると、ちょうど自衛隊の車両が次々と駐車場から出ていくところでした。戦車のような見かけの16式機動戦闘車の上からは、雨の中にもかかわらず、見ている私たちに隊員の方が手を振ってくれました。
私たちも出発して本線を走っていると、自衛隊の車列に追いつきました。あんなに大きな戦闘車が高速道路を走れることにも驚きですが、こんな悪天候の中、濡れたまま車から頭を出して前を見つめている隊員の方々を見ると、仕事とはいえ大変なことだと、ただただ頭が下がる思いです。
雨は強くなったり弱くなったりを繰り返しています。
「私、晴れ女なのに……」
とけいぴゃんは残念そうですが、台風が逸れていっただけでも大したものです。
神奈川県をほんの少しだけ通過して、小仏トンネルを抜ければいよいよ東京都です。
「このトンネルでいよいよ東京ですよ」
そう声をかけると、やっぱり始まったのは生配信。
「ほら、どこからどう見ても東京らしいでしょ? この空とか、標識とか、道とか……」
高尾山あたりの緑豊かな風景の中、東京らしいでしょうと連発するけいぴゃんなのでした。
中央道を三鷹あたりまで戻ってきたところで、土砂降りの中を走るオープンカーを見かけました。
「すごいですねぇ。閉めないんですかねぇ」
運転手さんは雨をものともせず走っていきます。やがて、私たちと同じく高井戸の出口で下りて、信号待ちで止まったとき、ようやくオープンカーの屋根が閉まりました。
「やっぱり、冷たかったんじゃないかなあ」
オープンカーに乗ったことはありませんが、走行中は安全のため、開閉ができないのかもしれません。それに、雨でびしょ濡れになった車内はその後どうなるのでしょうか。彼がその後どうなったのかは、誰も知らないのでした。
東京オリンピック開催に伴い、都内の首都高では今日まで一般車1,000円上乗せの措置が続いていました。
「下道が混むんだよなぁ……」
と心配しましたが、今日は山の日で祝日ということもあってか、目立った混雑はありません。
都内に入ってからも、雨は降ったり止んだりを繰り返します。甲州街道を走りながら、けいぴゃんは道行く人のファッションチェックを始めました。
「東京にはおしゃれな人がいっぱいで、見ていて飽きないんです」
と言うけいぴゃん。確かにおしゃれだとは思っていましたが、そんな趣味があったとは……。
楽器の搬入先は、某アジト。10時頃、目的地に到着すると、雨がけっこう降っています。段ボール箱を降ろすのならどうってことはないのですが、積んでいるのは楽器。雨は大敵です。
雨の中、アジトの家主に連絡してみたのですが、つながりません。ずっとそこで待機しているわけにはいかないので、
「スカイツリー、見に行きましょう」
とけいぴゃんを誘ってみました。もちろん、展望台に上がるわけではなく、車中からの観覧です。
走っているうちに、家主から連絡がありました。スカイツリーの下までは行けませんでしたが、それでも、目の前に大きなスカイツリーがそびえるのを見たけいぴゃんは、満足だったようです。
アジトへ戻ると、搬入のときには雨が上がっていました。やはり、けいぴゃんが晴れ女だというのは本当だったようです。それも、超ド級の晴れ女。台風さえも逸らせるほどのパワーです。
けいぴゃんとけいぴゃんの楽器を降ろせば、あとは自宅までのひとり旅。こうして走行距離2,559kmの夏の旅は終わったのでした。