お出かけ日記ANNEX

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8/1(日) 初めてのお遍路 酷暑の四国一周の旅2日目~その3~

 民宿の1階には、大きな水槽がありました。水の温度が低いせいか、曇っていて仲が見えません。何が入っているのかと思ってじいっと見ていると、宿の奥さんがガラスを拭いて見せてくれました。


「これがハモです」
 大きな鱧が所狭しと水槽の中を泳ぎ回っています。実は、生きている鱧を初めて見ました。今まで食べたハモはひと切れずつになったものですから、実際の大きさなんて想像もつきません。
「こんなに大きな魚だったのですか」
 その鱧を、今晩はたっぷりいただけるのです。そのためには少々お腹を空かせておかなければなりません。ちょっとだけ、散歩に出かけることにしました。
 散歩といっても、由良の集落まではちょっと距離がありそうなので、車で出かけることにします。海沿いの県道を再び走り、集落へ続く狭い道へと入り込んでみました。


 小学校のそばにあった由良湊神社にまずは参拝。どうしても、寺より神社に目が向いてしまいます。それから、その奥にあった心蓮寺へもごあいさつ。山門からふと振り返ると、海までまっすぐ続く道は、まさに島の風景。それに、学校があって、神社があって、寺がある。その周りに少しの商店や住宅がある。まさに、小学校3年生の社会科で学習する地図のような町です。


 私が地図に興味をもったのが、この小学校3年生の社会科の学習からでした。地図を見れば、どこのどんな町のこともわかるというのが驚きでした。
「いつかそこへ行ってみたい」
 小学校の頃には、親に日本中の道路地図をねだって、昭文社の全国各地のマップルを買い揃えて、「いつかみんなで日本を一周したいね」なんて友だちと話していました。
 現代の子どもたちは、インターネットで地図を見て、ストリートビューでその場所の様子までわかってしまいます。それはそれでとても羨ましいことですが、紙の地図で育った私としては、地図を見てまだ見ぬ風景を想像するのもまた、楽しいのです。
 洲本の町の方へも行ってみました。四国でよく見かけるスーパーマルナカの鮮魚コーナーを覗くと、鱧が普通に売られています。さすが、鱧の本場です。


 近くの大浜海水浴場は、駐車場が閉鎖されていましたが、海で遊んでいる子どもたちの姿が道路からも見えました。近くの旅館の前には、海から帰ってきたらしいよく日焼けした小学校高学年くらいの女の子が2人、奥へ入っていくのが見えました。コロナ禍前には当たり前だった夏の光景ですが、それが当たり前でなくなってしまったのは残念なことです。いや、そう思うのは私たちだけであって、今を生きる子どもたちにはそれが当たり前になってしまっているのかもしれません。
 車で出かける散歩では、あまりお腹を空かすことはできませんでしたが、とりあえず民宿に戻ります。ひと風呂浴びたら浴衣に着替えて、さあ、戦闘開始です。今夜はハモのフルコースです。
 通された部屋は、何だかとても豪華なつくり。こんな部屋をひとり占めするのは気が引けますが、テーブルにはちゃんと一人前のはもすきが用意されているのです。もう、後には引けません。


 テーブルには、ハモの焼きなます、ハモの卵の玉子とじが並んでいます。酒は、地元の日本酒「都美人」の冷酒をいただきました。これが水のようにサラサラ飲める危険な酒です。


 続いて、はもすき。まずは、宿の奥さんがお手本として作ってくださいます。切り身のハモを出汁の中に入れるとすぐに丸まって、湯引きのようにフワフワのあのハモになるのです。甘めの出汁と相まって、これがまたうまいのなんの。ハモといえば湯引きくらいしか食べたことがない私にとっては、「こんなうまいものがあるのか」と驚くばかりです。


 さらに驚かされたのは、はもすきに投入される玉ねぎの甘さです。淡路島が玉ねぎの産地であることは有名ですが、それをこんなに腹いっぱい食べることになるとは思いもしませんでした。


 その後、湯引き、天ぷらと続きます。


「最後のごはんは、はもすきの出汁をかけて召し上がっていただきます。この間は、小学2年生の男の子が、『美味しい』と言って何杯もお替わりしましたよ」
 宿の奥さんはにこやかにそうおっしゃるのですが、私はふと心配になってきました。
 確かに、うまいのです。すこぶるうまいのです。しかし、お腹の容量には限度があります。
 はもすきだって、まだ半分くらい残っています。さすがにこれを残すのはもったいない。しかし、これを食べてしまうと、ごはんが入る余裕はありません。こんなことなら、たこ焼き屋さんのハシゴをしたのが悔やまれますが、後の祭りです。
 インターホンで呼ぶと、ごはんを持ってきてくれることになっていましたが、ここは正直に伝えるしかありません。
「大変申し訳ないのですが……」
 インターホン越しに、ごはんとデザートを辞退します。
 後で片づけに来た宿の奥さんが、
「皆さん、だいたい『お腹いっぱいだ』っておっしゃいます」
と笑っていました。そりゃあ、これだけ出されたら大満足です。
「もう、今まで食べた鱧よりたくさんの鱧を食べたんじゃないか」
 布団に寝転んでそんなことを考えていると、満腹のせいか、それとも昨夜遅くまで運転したせいか、あっという間に眠ってしまったのでした。