お出かけ日記ANNEX

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8/7(土) 初めてのお遍路 酷暑の四国一周の旅8日目~その4~

 国道194号線を下りていくと、四国でよく見かける八十八霊場を案内する看板を見付けました。時刻は15:30。山を下りたのですから、いくつかまた寺を巡るのも悪くありません。
 看板に書かれていた札所の名前は、60番横峰寺。冬季は寺へ通じる林道が通行止めになるため、車で行くことができなくなる難所です。
「横峰さんへ行っておけば、後が楽だろう」
 そう考えて、ハンドルを左に切ります。
 走っているうちにトイレに行きたくなりました。そんなとき、寺へ行くバスの乗り場が見えてきたので、トイレを貸していただくことにします。


 バス乗り場は、ここまで車に来てバスに乗り換える人を想定しているのか、車が停められるようになっていました。運転手らしい人が、小さな小屋へ入っていきます。おそらく、あそこがトイレです。私も後に続きます。
 すると、運転手らしいその人に、
「どこへ行く?」
と聞かれました。
「横峰さんまで上がりたいのですが、有料道路で行くかバスで行くか、考えているんです」
「車は?」
「軽四です」
「だったら、車で行き。自由が利くけぇ」
 バスの運転手さんならバスに乗ることを勧めてもよさそうなものですが、自分で上がるように言われました。後になって考えてみれば、こんな時間からバスで横峰寺へ上がる人など他にはおらず、私のためだけにバスを運行して下りてくることになるからだったのかもしれません。
 最後に男性が、
「ここ、公衆(トイレ)やないで」
と言いました。しまった、従業員用だったようです。
「失礼しました。ありがとうございます」
とお礼を言って、スタコラサッサと車に戻ったのでした。
 60番横峰寺へ通じる林道は、有料道路。料金所で通行料金1,450円(軽四輪)を支払います。ちょうど細かいお金がなく、1万円札を出したのですが、嫌な顔ひとつせずにおつりを用意してくれました。
「道路施設、駐車場、お寺への歩道などの管理維持費に充当しています」とありましたが、1,450円というのはなかなかいいお値段です。
 料金所のおっちゃんが私の真っ赤な車を見て、
「この車、よう目立つなあ」
と言いました。でも、おつりを準備しているおっちゃんは、ブースの中にいる別の人。つまり、こんな山の中の料金所に2人もいるのです。
「この車じゃ、悪いことできないんですよ」
「悪いことしたらだめだって」
なんてやり取りをしながらおつりを待っていたのですが、1,450円は間違いなく、おっちゃんたちの人件費にも充当されているはずです。
 林道は急カーブや急こう配が続き、対向車も下りてきます。こんな道は四国のどこにでもあって、車でお遍路ができる人は、全国どこだって車で走れるだろうと思うのです。


 駐車場に着いて寺へ向かおうとすると、坂を下っていくようです。これまでに訪れた寺はどこも駐車場よりも高いところに寺がありましたが、ここは逆。ということは、帰りは延々と上り坂が続くということ。
「行きはよいよい、帰りは辛い、か……」
 お遍路で寺を巡っていると、よくもこんな山の中に寺を建てたと思う札所がいくつもあります。ここ横峰寺もそうです。寺の案内看板によれば、「標高750m。八十八霊場のうち第3番目の高さにあり、四国遍路における三番目の関所です。」とあります。この関所のところに※がついていて、下にその説明がありました。


「『関所』悪いことをした人、邪心を持っている人は、お大師さんのおとがめを受けて、ここから先へは進めなくなるといわれています。」
 その関所は4つあり、19番立江寺、27番神峰寺、60番横峰寺、66番雲辺寺なのだそうです。
 他の3つの札所は険しい山だとわかっていますが、19番立江寺は町の中の寺。関所と難所はイコールではないようです。
 しかし、この横峰寺は八十八ヶ所屈指の難所と言っていいでしょう。林道が開通したのが、1984年(昭和59年)というので、それまでは歩いて登らなければならなかったということなのでしょう。
 静かな山の中の寺は、そこにいるだけで心が洗われるようです。お遍路さんでにぎわう時期はまた違うのかもしれませんが、一人でそこにたたずんでいるというそれだけのことが、何か特別のことのように感じられます。


 再び林道を下っていくと、料金所にはもう誰もいません。もうすぐ17時。納経所がそろそろ閉まるので、これから上がるお遍路さんはいないという判断でしょうか。さきほどのバス乗り場に行っても、人の気配はありませんでした。そればかりか、バス乗り場近くの車道には大きな犬が3~4頭歩いています。首輪がついていたように見えたので、放し飼いなのでしょうか。いくら山の中で誰も来ないような場所とはいえ、何ともワイルドです。
 黒瀬湖のところから県道142号線に入ります。山を下っていくときに、時折遠くに瀬戸内海が見えます。
「ああ、懐かしい」
 広島で生まれた私にとって、子どものときの身近な海は瀬戸内海。それからいろいろな海に出かけましたが、穏やかな瀬戸内海の風景は、やはり格別なのです。
 今日は丸亀まで走らなければならないのですが、残りのガソリンでは丸亀まで走れそうにありません。だったら行けるところまで下道で行って、途中から高速に乗ることにしようと思っていたのですが、国道11号線は流れが悪く、このまま行くと、丸亀に着くのは深夜になってしまいます。ガソリンも入れたので、次の新居浜ICから松山道に乗ることにします。


 高速道路を走っていると、瀬戸内海の向こうに夕日が沈んでいくのが見えます。刻一刻と色が変わっていく空を見るのは楽しい半分、暗くなっていくのが寂しくもあります。豊浜SAでしばし空を見て、さらに先を急ぐのでした。