お出かけ日記ANNEX

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8/4(水) 初めてのお遍路 酷暑の四国一周の旅5日目~その3~

 27番神峯寺への急な山道を登っていくと、駐車場に出ました。ここでも駐車料金が必要で、なおかつ軽自動車と普通車で金額が違います。納経所での申告するシステムのようです。


 境内に入ってすぐ、鐘楼の裏手に湧く石清水のところに手水舎とあります。なんともワイルドです。病気平癒に霊験あらたかであるという伝えがあるというその水で手を清めると、冷たいその水の感触だけでも気持ちがシャキッとします。


 境内の樹木の手入れが素晴らしく、その全てが庭園のような美しさです。石段を上がっていくのですが、ここでも蜂の羽音。思わず屈んでしまいます。やはり、この音は好きになれません。

 少し時間が早いのですが、次の札所へ行っても戻ってくることになるので、今日はここで打ち止めとします。


 今日の宿舎がある安芸市で有名なのは、野良時計でしょうか。せっかくなので、観光もしてみることにします。


 安芸市観光協会のサイトによると、この野良時計は家ごとに時計のなかった明治の中頃、土地の旧家で地主であった畠中 源馬氏が自分で時計組み立ての技術を身につけ、歯車から分銅まで手づくりで作り上げた時計台だとあります。なんと氏は、自宅にあった米国製の掛時計を分解して時計の構造を学んだというから、その向学心には驚くばかりです。
 ガイドブックなどに載っている写真は被写体を大きくクローズアップしているので、実際に訪れてみるとその小ささにガッカリしたという話をよく聞きますが、この野良時計はその逆で、私が思っていたよりもずっと大きなものでした。


 安芸「市」というので、大きな道が整備されているのだろうと勝手に思っていたのですが、野良時計から少し離れると、対向車との離合にも苦労するような細い道ばかり。でも、昔からここを通っていた道です。その土地ならではの風景が残っているのは嬉しいところ。今や全国どこへ行っても、国道や高速道路から見えるのは同じような店の看板ばかりなのは、旅人としては寂しい限りです。
 予約していた山登屋旅館は、昭和の香り漂う外観。チェックインを済ませて入った部屋も、ザ・昭和。


「バス・トイレ付きって書いてあったよなぁ」
 トイレは和式をどうにか洋式にしたタイプで、バスというより風呂は、床はタイル張りが美しく、その中にステンレス浴槽が鎮座しています。こんな素晴らしい物件に出会えるとは、それだけでもう、心が躍るようです。


 帳場のおばあちゃんに、
「ちょうどお風呂、入れますので」
と大浴場の風呂を勧められました。私も広い風呂の方が好きなので、言われた通りに大浴場へ。体を洗って風呂に入ると……。
「熱いっ!」
 熱い湯が大好きな私ですが、足だけでも入っていられないレベルなのです。これは、水でうめなければ私でも入れませんでした。それでも、暑い日に熱い湯に入るのはスッキリするのでした。
 部屋に戻り、明日以降の計画を見直します。というのも、車の中で聴いていたラジオで、沖縄近海の熱帯低気圧が明日にも台風10号が発達しそうだと言っていたのです。台風9号南シナ海にいて、日本列島に近づきそうだとのこと。つまり、10号と9号がダブルでやって来るのです。
「これはたまらない」
 ひとまず、東京へ向かう途中に宿泊予定だった8月8日の宿泊予約をキャンセル。今日までなら、キャンセル料がかかりません。旅では、臨機応変な対応が必要なのです。
 さあ、楽しみな夕食です。テーブルの上には、何はともあれ鰹のたたき。


「このあたりでは、刺身にするような新鮮な鰹をたたきにするんですよ」
と自慢されます。


 それから、手長エビの唐揚げ、鮎の塩焼き、茶そば、それに小鉢と果物がありました。真ん中にあるのは、陶板焼きだと言います。宿のお姉さんが火をつけようとするのですが、なかなか火がつきません。結局、取り替えることになりました。


「さすが、豪華だ。でも、なんとなく昭和の匂いが……」
 これだけのメニューなら、若い子向けの宿だともっと洒落た器に盛って、いわゆるインスタ映えするようにして提供しそうなものですが、そこは昭和テイスト溢れるこの旅館。
「うちの自慢の料理よ! さあ、腹いっぱい食べなさい!」
と言わんばかりの潔さがなんとも心地よいのです。
 ビールをいただいた後、日本酒は土佐鶴を常温でと注文。すると、
「土佐鶴も美味しいですよね。たぶん、さっき通られたと思うんですけど、この近くだと、田野のお酒で『美丈夫』というのが人気ですよ」
と教えていただきました。都会ではなかなか売っていないらしく、
「わざわざ遠くから買いに来る方がいました」
とのこと。
 そういえば、さっき立ち寄ったスーパーでも見かけたような気もします。田野からはどんどん離れていくので、この先見つけられるかどうかは分かりませんが、覚えておくことにしましょう、美丈夫。


 夕食の後、帳場のところにいたおばあちゃんに、夕食で出てきた柑橘が美味しかったと伝えると、おばあちゃんは嬉しそうに、
「小夏っていうんですよ。高知県独特のみかんでね。甘皮も美味しかったでしょ?」
と笑顔で語ります。地元のことをこうやって自慢できる人がいる宿こそ、素晴らしい宿だなあと思うのでした。